スペシャルティコーヒーの酸味はどこからくるの?
お客様からよくいただく質問のひとつです。
超深煎りの香ばしく苦味の強いコーヒーが好きな方は、浅煎りコーヒー独特のすっきりとキレのある酸味に驚かれる方も多いようです。この酸味はどこからくるのでしょう?
コーヒーの酸味には2種類あります。フルーツとしてのコーヒーの酸味と、コーヒーの劣化からくる酸味。今回はこの前者についてまとめてみます。
ご存知でしたか?
コーヒー豆はフルーツの種子です
コーヒーノキという植物の果実(フルーツ)の種子を煎ったもの、それがコーヒーです。コーヒーの果実はコーヒーチェリーとも言われ、果肉は薄いものの、赤く熟したものを口に入れれば、ジュシーで甘酸っぱいフルーツそのもの。フルーツの種だからこそ、コーヒー豆は多かれ少なかれ酸味を含んでおり、その酸味は土壌、産地や品種によって変わります。カリフォルニアで育ったアメリカンチェリーと山形のさくらんぼ「佐藤錦」の味が大きく異なるのと同じ理由です。
酸味が引き立つ浅煎りと
酸味がまろやかな深煎りコーヒー
この酸味は、焙煎度合いによって、さらなる変化を遂げます。
生豆を焙煎すると、もともと豆に含まれていた酸の成分が熱によって化学変化をし、新しい酸が生成されます。焙煎が進むにしたがって酸の総量は増えるのですが、高温で焙煎し続けると、ある地点を境に酸の熱分解が進んで酸味が減っていきます。
これが浅煎りのほうがよい酸味が強く、深煎りは酸味が穏やかになる理由です。コーヒーに含まれている酸は、クエン酸、酢酸、リンゴ酸、乳酸、リン酸、酒石酸など。コーヒーを飲むと時に柑橘系だったり、青リンゴやブドウの酸味を感じるのは、これらの酸に由来するものです。
コーヒー抽出の水が、
酸味の出方を左右する
かつて京都の老舗懐石料理店が東京に進出した際に、京都と同じ味の昆布出汁が取れずに悩んだ結果、京都から出汁用の水を運ぶことにしたという有名な話があります。これと同じように、コーヒーもまた水によって酸味の出方が変わります。
これは水のphや水に含まれるミネラルの影響です。特に炭酸塩硬度(炭酸水素イオンと結合しているカルシウムイオンとマグネシウムイオン)はコーヒーの味わいをバランスよくまとめてくれるコーヒーの抽出に欠かせないもの。カルシウムはコーヒーの濃度を引き出し、マグネシウムはフルーティな酸味を引き出す作用があるとされています。
水の硬度が高すぎても、低すぎてもバランスのよい酸味を出すことができません。一般的にコーヒー抽出におすすめなのは、軟水またはやや硬水。浄水器を通した水道水であればバランスよくコーヒーの酸味を引き出せます。もし高い硬水エリアにお住まいなのであれば、市販のボトル入りの水を使ったほうがよいでしょう。硬度がゼロの蒸留水ではコーヒーのおいしさを引き出せません。
でもやっぱりコーヒーの酸味が苦手な方へ
『世界一美味しいコーヒーの淹れ方』(ダイヤモンド社)で第15代ワールドバリスタチャンピオンの井崎英典さんはこう記しています。
”コーヒーは結局「苦いか・酸っぱいか」。(中略)
「苦味」が好みか「酸味」が好みか、この2つの好みまで分類することができれば、圧倒的にザックリとした判断にはなりますが、自分の好みの方向性を学ことができるでしょう。(中略)
苦味が好きな方→焙煎が「深め」のコーヒーを選ぶ
酸味が好きな方→焙煎が「浅め」のコーヒーを選ぶ
(中略)
焙煎度合いで苦味と酸味を大まかに分類することで、コーヒー選びにおいて間違いを犯すリスクを下げることができるのです。”
大雑把なカテゴリー分けのように見えますが、酸味を基準としてコーヒーを選ぶ時のひとつの指針として有効です。
ただし、コーヒーの酸味を決める要素はほかにもあります。甘さ、苦味、口当たりのまろやかさ、香りといったそれぞれの要素とのバランスもとても重要です。
生産地の土壌、気候、精製や焙煎方法などによって、大きく味が異なるスペシャルティコーヒーなので、「このコーヒーを選べば間違いない!」という明解な答えを見つけるのは困難です。さまざまなコーヒーを飲み経験を重ねていくことで、お好みの味やを見つけていただければと考えます。
参考文献
井崎英典著『世界一美味しいコーヒーの淹れ方』(ダイヤモンド社)
石脇智広著『コーヒー「コツ」の科学」(柴田書店)
丹部幸博『コーヒーの科学』(講談社)
ジェームズ・ホフマン著『ビジュアル スペシャルティコーヒー大辞典 2nd』 (日経ナショナル ジオグラフィック社)
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